命日

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   命日

 父の命日が近づいてきました。お坊さんを

呼んだ葬儀をせず、お別れ程度の簡易なもの

で済ませたので、お坊さんを呼んだりはしま

せん。また、墓を作らず、海洋散骨をしたの

で、墓参りはしません。その替わり海洋散骨

したあたりの海が見える場所を訪れようかと

思っています。何もしないからといって罪に

問われることはないのですが、周りの情報に

私の感覚は影響を受けているようです。その

情報から外れた行為に気持ち悪いものを感じ

てしまいます。そんな感情しか抱けない自分

をとても薄情な人間に想います。これから先

命日が訪れるたびに、この思いを抱き続ける

ことになるのでしょう。そのことにさえ特に

強い感情を抱けません。これが私なのでしょ

う。父を憎んでいたわけではありません。感

謝しているかといったらそれも違います。こ

の漠然とした感情は何なのでしょう。思い出

すことといえばいい思い出はありません。で

も、父の愛情を感じなかったかわけではあり

ません。むしろ強い愛情で育てられたと思い

ます。成人して家を出るまでは父を嫌ってい

たかもしれません。自分の子を持ち、同時期

に私は大病を患い、父への見方が変わったと

思います。大病といっても、目立った後遺症

はありませんでした。しかし、それまでのよ

うには体や頭を使うことはできなくなりまし

た。仕事では、出世といわれるものからは完

全に外れましたが、家族を養うには事足りて

いました。

 父は、私が小学校低学年だったころ交通事

故に合いました。その影響で、私が中学にな

るまで、入退院を繰り返していました。生活

保護も受けていました。そんな状況に父は焦

燥感を感じて、いらだっていたように思いま

す。時々どうしようもなく荒れてました。今

思えば、それは私たちへの愛情から来るもの

だった思います。

 そんな父を思いながら、実家に帰って命日

を過ごそうかと思います。